漫画出版社の海外展開に関して(1/4)

1. 日本漫画への国際的関心と増加する問い合わせ

日本の漫画文化は、長い間、国境を越え、世界中の読者を魅了し続けています。

この魅力は、国や言語を超えたインターネットの利用によって、一層広がっています。自ら積極的な宣伝を行わなくても、海外の読者が熱心に日本の漫画を探し、海外の出版社もまた積極的に問い合わせを行ってくれます。

漫画情報の収集方法に革新をもたらしました。

かつては、日本から漫画雑誌や単行本を国際郵便で海外出版社へ送ったり、ブックフェアの商談会に参加するなどして、作品紹介を行っていましたが、現在ではスマホひとつで、日本の漫画市場の「今」を世界中から覗くことができます。

特に注目すべきは、日本国内の電子コミック市場の成長です。紙の出版物を凌駕する勢いで、電子コミックは日本の文化を新たな形で世界に伝えています。インターネットを介し、海外の読者は簡単に様々な漫画プラットフォームにアクセスし、試し読みを楽しむことができます。

さらに、人気作品のランキングをチェックすれば、海外の出版社は日本の書店まで来なくても、直近の売れ筋を知ることができますし、漫画家やファンによるSNSをチェックすれば、どの作品・作家が、どのように受け入れられているか、把握できるようになりました。

実際に、まだ1話目しか公開されていない電子連載が始まったばかりの作品であっても、このような情報収集を通して、海外から翻訳出版のオファーが届くという話は、もはや珍しくはありません。いったいどこから情報を得ているのだろうと、海外出版社のリサーチ力には常々驚かされます。

しかし、この増え続ける国際的な関心と問い合わせの流れは、出版社としての新たな課題も生んでいます。
次章では、これらの問い合わせに対する出版社の対応方法と、その限界について深掘りしていきましょう。

2. 受動的対応の限界とその問題点

海外からの関心が高まる中、問い合わせに対して反応的、すなわち事後処理的に対応している国内出版社も少なくありません。この方法は、短期的には対応可能かもしれませんが、長期的な視点で見れば、海外市場の潜在的なニーズやトレンドを把握できず、戦略的な市場拡大やブランド構築の機会を逃してしまうでしょう。

さらに、この受動的な対応は作家をはじめとしたクリエイターたちとの関係にも影響を与えかねません。例えば、前述のとおり、SNSなどを通じて、海外のファンも作家への要望を直接届けることができます。その内容によっては、現地の需要に対して、国内出版社の対応が怠慢であると受け止められ、深刻な場合には、より積極的に海外展開を行う出版社へ作家が移ってしまうかもしれません。

また、日本漫画への国際的関心は、翻訳海賊版の増加にもつながっており、対策が必要です。世界の警察・政府機関が連携し、海賊版の「取り締まり」は年々強化されていますが、一方で、海賊版に勝るスピード、品質、利便性、ラインナップで正規版を世界中に届ける仕組みを急がねばなりません。「取り締まり強化」と「正規版の流通拡大」は、両輪で同時に進める必要があります。正規版が存在しない状態のまま、海賊版の駆逐ばかりを急ぐと、世界における日本漫画の露出機会が減るだけになってしまいます。

社内の業務管理についても考えてみます。海外からの問い合わせは、不定期に届くため、業務の計画性が乏しくなります。許諾確認、契約手続き、請求処理、素材の提供、作品の監修など、各プロセスが断片的に進行し、結果として効率が損なわれ、管理が困難になるのです。

次章では、より積極的な海外展開のアプローチとその必要性について掘り下げていきます。単に受動的に問い合わせを処理するのではなく、どのようにして出版社自身が主導権を握り、海外市場での存在感を高めることができるのかを考えてみましょう。